SUN MOTOYAMA

新しい風を吹かせて新会長就任・新社長就任に寄せて

サンモトヤマは、6月20日から新体制になりました。新会長に茂登山もとやま貴一郎きいちろう(前社長)、そして、新社長に卜部うらべ正壽まさひさ(前副社長)が就任いたしました。これからのサンモトヤマの未来に込めた姿勢を、私たちがいま改めて大切にしていきたい想いと共にご紹介します。

幼少からサンモトヤマ創業者である父の茂登山長市郎の側で、美しいものに触れ育つ。フランスのEDCを卒業後帰国。1982年にサンモトヤマに入社。エトロの販売会社設立のため、再び滞仏。帰国後、2007年8月に代表取締役社長に就任。独自の審美眼と感性によって、服飾品にとどまらずアートやプリミティブな造形物、アンティーク品まで、国内外にて自ら買い付けも行う。

会長になられた今、この先のサンモトヤマについて、改めて「志」を教えてください。

これからのサンモトヤマは「スピード感と時代感」がとても大切だと感じています。父である前会長の茂登山長市郎が60年以上前に商いを始めた頃と比べて今の時代は目まぐるしく変化しています。サンモトヤマの歴史をよくご存知のお客様はもちろんのこと、若い方にもサンモトヤマを知って欲しい。まだまだお洒落をして出かけていくことを大切にして欲しい。今を見つめるとともに、改めてこの先の20年を見据えて考えています。

具体的にどんな20年にしたいという想いがありますか。

自分たちにとって決して変えてはいけないところと、この時代の流れに合わせ変化しなければならないところがあります。ものがまだない時代に、ヨーロッパで出会った哲学を持った美しいブランドの数々に、父は、希望や情熱を見ていました。信じることのできる強さを、ファッションとして携えたかったのでしょうね。そこに共感してくださったお客様とのご縁はこの先も大切にしていかなければならない。一方、ものに対する執着が弱くなっている現代において、改めてその魅力をしっかりと伝えていく使命を感じています。原点である「ファッションを楽しむ」ことを、お得意様や、まだサンモトヤマを知らない世代のお客様と共に、深く追求していくことが必要だと思っています。新社長に就任する卜部氏はファッションの世界に長く身を置きながら、洋服の持つ力を信じ、その力を広く知らしめてきた実力のある人です。私たちは、タッグを組んで新しい風を吹かせていく時が来ました。

具体的にどんなことを届けていきたいとお考えですか?

本当に付加価値のあるものに出会うことを、これまでもずっと大切にして来ました。完成された魅力あるブランドから長年かけて私たちが学んだことは、「本当の豊かさとは何か」ということです。美しいものを追い求める姿勢、磨き続ける技術、新しい発想、続けていく信念、ブランドが成熟していく過程でふつふつと湧き上がり、育まれるもので、一見「もの」の形をしていますが、実は「感じる」ことのできる価値を纏っているのです。サンモトヤマがサロン的な場所であり続けて来たのは、そういった「感じられる」時間や場を作り出せていたからだと自負しています。日本において、そのようなお店はなかなかありません。今改めて、この力が問われていると感じています。日本から世界に発信できる場所として、ファッションとふたたび向き合わねばなりません。新しいお客様へは、届ける手段が変化していくでしょう。インターネットの力や、直接伝える場、より柔軟な発信をしていく必要があります。

会長と社長、新しいチームで、どんな風を吹かせたいですか?

新しい風、まさにそこです。私自身がその審美眼をもち、率先して飛び回れるように、一層国内外に目を向けて、審美眼を磨いていく必要があります。そして足元をしっかり固めていくために、新社長である卜部氏を迎え入れました。卜部氏は、事業としてファッションをビジネスに乗せていくことに、船頭となって牽引していきます。前会長が荒波の時代に大きな引力で、グッと引っ張ってくれていたエネルギーを受け継いだサンモトヤマスタッフ一人ひとりが、ますますレベルアップしていく時期に来ているのです。ファッションの世界でどんなビジョンを持ち続けたいか?つまり、「自分自身が洋服を着ることを楽しみ、そのことに感動した」その記憶を、今一度、呼び醒まして欲しいのです。 惚れ込んだものの魅力をきちんと表現していくこと。そして、私はその先頭を走っていくつもりです。

新店舗が開いてから実感されることはありますか。

海外からのお客様が増えていますね。彼らは日本の文化や感性を自国へ持ち帰ろうとして探しています。それは風光明媚な景色や料理、おもてなしといった日本の文化におさまらず、“和える”という言葉に象徴されるような美意識さえも、理解し愛でていると感じます。これらの新風の予感を、現実味を帯びたものに変えて行くことが、今後の挑戦です。

  • インタビュー・文stillwater
  • 写真Hanae Miura
社長・卜部正壽のインタビューを見る

1987年株式会社ワールド入社。学生時代から古着や洋服に興味を持ち、ファッションの世界で奮闘する。北京、香港勤務を経て、2006年同社を退社。インテリア、ファッションの世界で研鑽を積んだのち、2013年株式会社ヨウジヤマモト入社、執行役員就任。以後、生産企画やMD、マーケティングの経験を活かし経営的視点を持ってブランドのさらなる発展に終始する。持ち前の機動力と柔軟な視点により舞台を移しながらも、一貫してファッションを本質的な価値のあるビジネスへと昇華させていくことを原動力に邁進する。

サンモトヤマの社長に就任された、今の気持ちをお聞かせください。

私は、長い間ファッションの世界で仕事をしてきました。今日、ファッションの世界で様々なビジネスが成り立っているのは、60年以上前、戦後の傷跡が次第に癒え、急速に復興が進んでいく日本に、ヨーロッパの歴史と価値のあるファッションブランドを持ち帰り、多くの人に届けた茂登山前会長の偉業があったからこそだと思っています。あの時代に本質的な価値を見つめ、デザイナーやオーナーと信頼を築き上げ、ルートを形作り、ビジネスにまで昇華させた。これは、並大抵のことではありません。つまり、サンモトヤマとは日本におけるファッション、ブランドビジネスの礎を作ってくれた存在なのです。ですから私が今、社長に就任し、今後のサンモトヤマの事業を牽引していく役割を担うことは、大きな意味でいえば“恩返し”のようなものだと考えています。

卜部さんにとって、ファッションとはどのような存在ですか?

私は洋服の中でもジャケットが好きです。ジャケットにはブランドの気概のようなものを感じるからです。洋服=ファッションには不思議な力があると思います。今の自分を図る尺度にもなり、時に我々を勇気付け、高揚させてくれます。洋服はサイズが合っていれば良いというものではありません、布の選びかた、縫製、細部における小さな技術が、服に袖を通した瞬間に違いとなって現れるのです。若い頃にそのような体験を得て、ファッションをビジネスへ押し上げたいという気持ちを持ってこの世界に進みました。アパレル企業時代に、SPA(製造小売業の意。卸売をせず、自社製品を自店で販売する方法)にも携わりました。これはもともと、無駄を省き、良いものをお客様に届けて行こうという、崇高な理念に端を発していたものです。しかし、国内の工場が空洞化し、海外の工場もまた疲弊するなどの問題や、商品の価値が均一化しトレンド感も同質化した特徴のない洋服ばかりが増えていくという事態に発展し、ある日「誰も幸せになっていないな?」と気が付いたのです。作り手の想いが感じられる、丁寧に作られた洋服が欲しい。昨今メゾン系のブランドがとても元気なのは原点回帰している人が増えているからでしょう。哲学があり、歴史があり、物語があるもの。これらをきちんと洋服に落とし込み、意志を持って発信し続けているもの。ここにこそお客様は共感をしてくれる。私たちも、発信をしなければならないのです。

サンモトヤマで、具体的にどんなことを大切にしていきたいですか?

哲学と、歴史と物語のあるブランドをきちんと探し当て、日本に届けてきたサンモトヤマです。それを実現できた理由は、サンモトヤマには作り手に対する尊敬の念があったからなのだと思います。かつてグッチを訪ねた前会長が、ポケットチーフを出して、シルバーの商品を手に取ったら中へ招き入れてくれたというエピソードが知られていますね。作り手に対する敬意と、そのプロセスに好奇心を持ったことが相手の扉を開いた。おそらく、新しいことをするには開拓者のスピリットがなければできなかったことでしょう。私たちが今後、国内外でバイイングする際にも、同じように心がけていきたいと思っています。情熱を持って、買い付けに行くこと。例えば、ラグジュアリーブランドのバイイングは、あえてファッションウィークに目がけて行くべきなのです。優秀なバイヤー勢の中で、しのぎを削り、しっかりとなぜその商品をバイイングしたいのかの想いを伝える。リスクを回避するやり方で商品を仕入れても、販売するときに気持ちを込めることはできません。バイヤーはインスピレーションを感じたからこそ動ける生き物なのです。そういう意味で、今後私たちはもっとシビアに、けれど情熱的にものと向き合って行くことになるでしょう。

かつての創業当時のサンモトヤマを、もう一度なぞらえて行くことにもなるのでしょうか?

厳密に言ったら違います。私たちは新しい挑戦をしなければなりません。ブランドビジネスの礎を築き、それぞれのブランドが“ジャパン社(日本法人)”を作り、手を離れひとり立ちして行った。それは結果的にマスに届いて行ったと言えるでしょう。つまりマーケットとしての読みが正しかったのです。いい加減にやっていなかったからこそ、社会現象になって行きました。だからこそ、私たちは時代が求める付加価値を創出して行く仕事をし続ければなりません。また、新しい入り口を作るために、アフォーダブル(手が届く)で、アクセシブル(手に入れやすい)商品を増やし、着ていける機会そのものを増やして行く必要があります。

審美眼を持って、誰にも知られていないものを見つける難しさはありますよね。

こればかりは、テクノロジーを駆使して探してもなかなか見つからないものです。これまで培ってきた人脈や、現地のご縁を使って出会いを紡いでいきます。サンモトヤマというブランドは、創業家が続けているという事実こそどこにもない価値です。日本国内の工芸や技術の切りだしを行い、海外のブランドとしっかりとミックスさせることなど、会長の真骨頂である“見立て”の感覚を、私はとても信頼しています。今後、ECサイトの充実や、ブランドというものをいかに「シェア」して行くか、考えねばならないことが山ほどあります。しかし、一番大切なことはマーケットやターゲットではありません。そういうものに左右されない価値観を生み出していかねばならないのです。多様化していくお客様にどの商品が響いていくのかなど見当がつかないもので、それこそが面白さです。かつてのサロン的サンモトヤマを彷彿とさせるような場づくりと、私たちが良いと思うもの、お客様が良いと思うもの、これらが合わさることのできる“余白”を、大切にしていきたいと思っています。

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